中屋重栄刃物トギ店さん 

 いつも鋸の目立てをお願いしている近所の砥ぎ屋さんです。工房を通りかかると入り口のガラスドアから差し込む光で刃物を研いでいるのが見えます。 

鋸目立ての仕事をしていたお父様の後を継いだ中屋さん。当時、建築現場などでは大工さんがノコギリを使うのが当たり前でしたから、この目立ての技術があれば生涯困らないだろうと進んだ道でした。
しかし、今では建築現場で鋸を使う場面は少なくなり、鋸自体も替え刃式のものが普及したため目立ての依頼はどんどん減っていったそうです。まさかこんな時代が来るとは思いもしなかった!と語る中屋さん。

これからは鋸以外の刃物も研げるようにならないとだめだ。そう思った中屋さんは一生懸命に勉強と試行錯誤をしました。ネットとは疎遠で宣伝も一切しませんが、真剣で丁寧な仕事ぶりは口コミで広がり、今ではご近所さんはもちろん、全国各地からも美容師さんのハサミや蕎麦包丁、特殊な刃物トギの依頼が来るようになりました。


「昔は自己満足で研いでいた。とにかく研げば良いと思っていた。でも今は違う。いろんな刃物の依頼が来るようになって刃物のことを改めて勉強したり試行錯誤をするうちに、自分の研ぎも随分変わった。しっかり向き合えば仕事が技術を上げてくれるし、喜んでもらえる。あぁ、職人の醍醐味ってこういうことだなと。」

「今は依頼人がどういう切れ味を求めているかを探るし、刃物の表面も持ち込んだときより綺麗にして返す。これは母親の形見のハサミだったから、綺麗にまでしていただいて嬉しいと言われたとき、悔いなく渡せたのが自分も嬉しかった。」


今年はコロナの影響で依頼も減るかと思われましたが、意外にも問い合わせが多く忙しかったようです。多かった依頼の品は"裁ちバサミ"。マスクを作ろうと昔の裁縫道具をひっぱり出したらハサミが錆びてて使えない!持ち込んで砥いでもらった主婦から口コミで広がり、たくさんの裁ちバサミを研いだそうです。


私はいつもノコギリを目立てしていただいています。急ぎの時はわがままも聞いていただいたり。そして、時々手仕事の話もします。業種は違えど、とても頷ける、そしてためになる経験談を聞かせてくださいます。


私たちの身の回りには便利な生活用品が増えましたが、メンテナンスして繰り返し使える、暮らしの基本的な道具の存在も忘れたくないものです。それらをメンテナンスしてくださる技術をもった職人さんは、いざというときもとても頼りになる存在だなと思います。

聞き取り&記事掲載日 2020年10月

なんでも手に届くところにある、中屋さんのコックピット。

 

※中屋さんはおひとりでお仕事をされています。研ぎ仕事は目も神経も使うし時に危険も伴います。手の届く範囲での丁寧な仕事を心がけるため、これからは常連さんや近所の方々の依頼を中心にお仕事をしていくそうです。
中屋さんのような方の存在を知っていただきたいと思い今回ホームページへの掲載を無理言って許可いただきました。急なお問い合わせはなるべくご遠慮いただきますようよろしくお願いいたします🤲