手割り檜板職人 三尾邦男さん
三尾邦男さんは岐阜県中津川でヒノキの丸太の目利き買い付け、手割り製材・加工を行っている職人さんです。2022年7月で86歳になられます。
刷毛や狐が漆刷毛に使用している檜、そして現在流通している漆芸素材店で見かけることのできるヘラ製作用の国産手割り檜板は、すべて三尾さんが目利きし手割りしたものです。
ところで、なぜ刷毛製作やヘラ木には“手割り”の材が使われるのでしょうか。それは機械製材された材だと自分でさらに細かく裂いたり加工していこうとすると、予想外の方向に割れたり逆目が出たりしてしまう可能性が高いからです。自分で細かい加工をしていくためには、自然の木目に沿って手割りするのがいちばん。とはいえ、丸太を購入するのは大変なことです…。丸太を目利きし、使いやすい大きさに手割りしてくれる職人さんがいるからこそ、私たちはこうしてものづくりに取り組むことができるのですね。
なかなか三尾さんに会いに伺うことができませんが、電話で生い立ちやお仕事についてお聞きした内容をまとめてみました。写真は私が修行中の2015年4月に田中親方とともに三尾さんのもとを訪れた時のものです。
三尾さんのお父さんは山から木を切り出して売ったり、切り出した木を使って曲げわっぱをつくることを仕事としていました。三尾さんも幼い時から木に触れて育ち手伝いもしていましたが、お父様が早くに亡くなられ、24歳であとを継ぐことになったそうです。
はじめはお父様と同じ仕事をしていましたが、あるとき木を加工してペンキ刷毛や糊刷毛用の"柄"を作れないかと持ちかけられ、それを機に自らの手割り板で柄の加工も行うようになりました。
まわりでは手割り板を手掛ける職人が減っていたため、三尾さんの良材の目利きと手割りの仕事が漆芸界の目にとまり、漆芸用のヘラ板づくりの依頼も受けるようになりました。
この頃、田中親方も漆刷毛用の手割り板の職人がいなくて困っており、糊刷毛屋さんの紹介で三尾さんを知ったのでした。それからはずっと田中親方も私も、三尾さんの手割り板にお世話になっています。良質のヒノキを目利きしてくださるおかげで作業性が良く仕事がはかどります。
製材業者の多い岐阜中津川でも、手割りを生業としている人は現在三尾さんだけです。今後が心配でしたが、息子さんが跡を継いでくださるとのことでひと安心。とても有難いです 。
聞き取り&記事掲載日 2022年5月
訪問時の写真 2015年4月
三尾さんが扱うのは樹齢250年以上の原生ヒノキです。
仕入れた丸太は濡らした布をかけたり、割れが起きないように天候を見てこまめに管理しておられました。
大きな木槌と鉈を使って木の様子を見ながら手割りしていきます。割った板は三尾さんの工房で数年乾燥させてもらったのち、刷毛や狐工房に送っていただいています。
丸太を割るでけでなく、糊刷毛用の大きな刷毛の柄から…
舞妓さんや歌舞伎役者さんが使う化粧刷毛まで、細かい作業もこなします。
木目の良い端材は奥さんとの共作でお箸に加工して、手割板に同封して送ってくださいます。利用できない芯材や端材もとっておいて、お風呂や仕事場の焚きつけにしているそうです。
狐工房でも刷毛づくりの際に出る木端はとっておいて道具に加工したり、欲しい方にお譲りしたりしています。木端からもいろいろな繋がりが生まれています。